色のない世界。【上】
そんなに慌ててどうしたのだろう。
そんなことを考えていると、駆け寄ってきた悠汰に力強く抱き締められた。
どうすればいいのか分からずに梨緒様を見ると、梨緒様は何故かニヤリと笑って部屋を出ていってしまった。
どうしようかと考えていると、悠汰の体が若干震えていることに気付いた。
「…ゆう、た…?」
名前を呼ぶと、キュッと背中に回った悠汰の腕に力が入った。
「…いなくなったのかと思った。
お前が一人であいつのところに行ったと思って怖くなった」
あいつとは湊兄様のことだろう。
私が部屋にいなくて、悠汰を不安にさせてしまったんだ。
昨日の常磐胡梅から受け取ったあの紙を見てから、悠汰の様子が違った。
私のことをずっと見たままで、何かを考えていたようだった。
きっと私が自分を犠牲にして涼音を助けに行くんじゃないか、そう思っていたのかもしれない。
悠汰が怖くなる前に、私が何か言えばよかった。
悠汰を安心させる言葉を。
私は片腕を悠汰の背中に回し、もう片方で悠汰の頭を優しく撫でた。
「大丈夫。私はあなたに助けられた、その命を人生を湊兄様や兄弟達に易々とはあげない。
私は何があってもあなたの傍を離れない」
私がこの命を人生を犠牲にするのは悠汰や涼音、大切な家族を助けるためと決めたから。
私の言葉を聞いた悠汰は体を少し離し、私を見つめる。
先程よりは落ち着いた表情をしているけど、まだ少し恐怖が残っているようだった。
「言葉だけじゃ、信じられないよね」
「…え?」
私の小声は悠汰の耳には届いていなかった。