色のない世界。【上】
今の私は鎖で拘束されている。
どう足掻いても、正確に計算され撃たれたこの銃弾からは逃げられない。
死ぬんだと思った。
でも銃弾が体を貫く感覚は一向に襲ってこなかった。
恐る恐る目を開けると、銃弾が貫いた筈の左胸は無傷だった。
無傷なうえ、左胸につけていた九条院家の紋章の入ったバッジがなくなっていた。
慌てて辺りを見回すと、美桜様がいる檻の近くに銃弾がのめり込み、紋章が分からないくらい潰れたバッジがあった。
何が起こっているのか分からず、驚いて潰れたバッジを見つめる。
すると今度は窓から何かが入ってくるのが視界に入った。
「…これであなたは死んだわ。九条院家最強の護衛人、柊涼音はね?」
「…常盤…胡梅…!」
窓から入ってきたのは、常盤胡梅だった。
常盤胡梅が入ってきたことで九条院家本家ビルから銃口をこちらに向けていたのは、こいつの娘だとすぐに納得した。
常盤胡梅は潰れたバッジを履いていた高いヒールで、壊した。
「あなたはただの柊涼音。ここから逃げるのも良し、自ら死ぬのも良し、…」
「お前は、常盤胡梅!俺の邪魔をするな…!!」
常盤胡梅が喋っている途中でこいつの存在に気付いた湊は、銃口を常盤胡梅に向けた。