色のない世界。【上】




涼音は弱った美桜を軽々と抱き上げると、未だ護衛人達に囲まれている悠汰達のところに近付いた。




涼音の気配に気付いた数人の護衛人は向きを変え、涼音に襲いかかった。




だが涼音はふっと笑い、美桜を抱き上げたまま脚だけで護衛人達を片付けた。




涼音に倒された護衛人達は他の護衛人にぶつかり、悠汰達の周りにいた護衛人達はドミノ倒しのように次々と倒れていった。




涼音の圧倒的な強さに悠汰は驚いたが、涼音が抱き上げている美桜を見ると悠汰は慌てて涼音のところに駆け寄った。




「…美桜っ!」


「かなり弱ってはいるが、意識はある。帰って少し休めば大丈夫だ」




悠汰は心配そうに美桜の乱れた前髪を優しい手つきで梳く。
すると苦しそうに目を閉じていた美桜の表情が、僅かに和らいだのに涼音は気付いた。




(…ふ、坊主の温もりは特別なんだな)




涼音は美桜を見て優しく微笑むと、次には真剣な目をして悠汰に美桜を渡した。




「…坊主、美桜様を頼む」


「え、あ、おい!?」




半ば強引に美桜を渡され、悠汰は何も言えずに美桜を抱き上げた。
それを確認すると涼音は悠汰達に背を向け、まだ大勢いる護衛人と対峙した。




自分の前に立った涼音を見て、悠汰は涼音が何をしようとしているのかすぐに分かった。




(こいつ、一人で全員片付けるつもりか!?)




見る限り涼音は全身傷だらけで、それは見ている方が思わず顔を歪めてしまうほど。
だが涼音はその体で敵を全員片付けようとしているのだ。




「お前、無理だろ!そんな体でこいつら全員倒すなんて…!」




悠汰は涼音の背中に叫ぶが、涼音は横目で悠汰を見るだけでそこを退こうとはしなかった。




それとは逆に、涼音はニヤリと余裕そうな笑みを浮かべた。



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