色のない世界。【上】
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【side 涼音】
『涼音!』
あなたにはずっと桜のように美しい笑顔でいて欲しかった。
笑顔で私の名前を呼んで欲しかった。
例えこの先、残酷な運命が待ち構えていたとしても。
『…涼音、道具って何?私は人じゃないの?』
私の密かな願いは、彼女の残酷な運命にかき消されてしまった。
彼女が笑顔になれないのなら、私だけは彼女の前では笑顔でいよう。
そしたらいつか、私に釣られてあの笑顔を向けてくれるかもしれないから。
『守るしか能のない道具が道具に情を見せてなんになる。
守る道具はただ黙って、九条院家(我々)を守っていればいい』
『お嬢様に外の世界のことを教えてる暇があるなら、少しでも多く修行して柊本家に恥じない護衛人になりなさい』
残酷な運命は私を鎖で縛りつけ、私の彼女への想いに鍵をかけた。
もう二度とこの鎖と鍵は壊れることがないと思っていた。
でも彼女が壊してくれた。
いつか私に見せてくれた桜のように美しい笑顔を向けて。
願いを心の隅でずっと願い続けて叶うのなら、私はずっと願い続けよう。
願いが叶った瞬間の、この至福を味わうために。ずっと…