色のない世界。【上】
「美桜嬢は眠ってる。お前が守ったおかげで無傷だ」
「そうか…よかった」
美桜様が無傷でここに帰ってきたと知り、安心した。
美桜様を守れたのなら、この傷も痛みも誇らしい勲章に感じる。
そういえばこの手当ては誰がしてくれたのだろう。
全身に包帯が綺麗に巻かれている。
包帯を見てから、ふと近くにいる坊主の側近を見た。
まさか…
「お前が手当てしてくれたのか?」
腕を伸ばして包帯を奴に見せる。
すると奴は若干頬を赤くして目を泳がせた。
何をそんなに照れる必要があるのか、全く理解できなかった。
「…他にやる奴がいなくて…俺がやった」
さっきよりも声量が落ちている。
こいつが恥ずかしがっている意味が分からないが、私の傷の手当てをしてくれたのは確か。
「そうか。世話をかけたな、礼を言う」
天井へと伸ばした腕を下ろすと、奴が間抜けなキョトンとした表情で私を見てくる。
ただお礼を言っただけなのに、何か変だっただろうか。
それとも私がお礼を言うのがそんなに珍しいのか。
私だってお礼くらいは言う。
奴は恐る恐る口を開いた。