色のない世界。【上】
「…見ないようにはしてたんだけど……その、手当てしてたら…見ちまって…」
はっきりと答えを言わないが、何を言いたいのかは予想がついた。
つまり。
「私の裸を見てしまった、ということを言いたいんだろ?」
「…っ!ぜ、全部は見てねぇよ!手当てしたところだけだ!」
手当てしてあるのは頬のガーゼに、手の指先から胸、腹、脚は爪先までしっかりと包帯が巻かれている。
つまり奴は大事なところ以外の全てを見たということ。
それで?
「それで何故お前は顔を赤くする?」
私の言葉に奴はまたポカンと口を開け、間抜けな顔をした。
私の裸体を見たからといって、何をそんなに恥ずかしがる必要がある?
「…柊家では男女など関係ない。
怪我をしたのなら、女だろうと裸になって治療を受ける。
治療をするのが男だろうとそんなのは関係ない。
実際、従兄弟の兄や父にだって私は裸で手当てをしてもらっていた」
柊家に産まれたからには、怪我はつきもの。
日々の修行で骨折することなど日常茶飯事。
だがその怪我は必ず治さなければならない。
治さなければ欠陥品となって、護衛人となることができないから。
だからどんな小さな傷であろうと、人に見せるのが恥ずかしい箇所に傷を負ったとしても絶対に治療を受ける。
自分で手当てするのではなく、目上の者にやってもらうのが暗黙のルールだった。