色のない世界。【上】
笑っていると視界にふと入ったのは、奴がさっきまで読んでいた雑誌。
雑誌の表紙には女が写っていて、『今年流行る、モテショート』と書かれている。
どうやら短髪のヘアスタイルの雑誌のようだ。
「…何故お前が女ものの雑誌を読んでいるんだ」
疑問に思ったことをそのまま聞くと、奴は一瞬目を丸くしたが次の瞬間にはまた頬を赤くしていた。
「…いや、お前のその髪を切り揃えてやろーかと思ってだな…」
私の髪?
そういえば護衛人としての柊涼音をやめるために、長かった髪を切ったんだった。
剣でザックリ切ったせいで長さがバラバラなのが、寝ていて髪を触っても分かる。
サイドに少し髪が残っていたから、その部分は切れてなくて以前の長さのままだし。
髪はいつもお母さんに切ってもらっていたが…
私は布団に手をついた。
「…からかった詫びだ。お前に私の髪を切らせてやる」
「あ、おい!?無理して起き上がろうとすんなよ!」
自力で起き上がろうとしたが、手に力が入らなくて倒れそうになったところを奴が支えてくれた。
起き上がるだけでこんなに息があがるとは。
私もだいぶ落ちたな。
「…別に今すぐ切らなくても、怪我がよくなってからでもいいだろ」
こんなひ弱な男に心配されている。
自分が情けなくなってくる。
確かに髪を切るのは今じゃなくてもいい。
でも髪が長いのが少しでも残ってると、まだ以前の護衛人だった私がいるようで気持ちが悪い。
「…早く消して欲しいんだ。あの頃の愚かな自分を」
反対していた奴は私の言葉を聞いて、静かになった。
しばらくの沈黙の後、奴は何も言わずに私の体を支えながら縁側へと誘導してきた。