色のない世界。【上】
縁側に座り切られていく髪を見ながら、今までの柊家の自分を思い返す。
普通の子供のように自由に遊びたかったのにそれが許されず、毎日血を吐く修行を重ねたこと。
修行中に自分の母親に数えきれないほどに骨を折られたこと。
女だが柊本家の嫡子というだけで、周囲からは冷たい目で見られていたこと。
美桜様の護衛人に選ばれたと同時に、一番信頼していた従兄に冷たくされたこと。
今思い返せばたくさんのことがあった。
どれを見ても幸せな出来事というのはなくて。
唯一の幸せな出来事といえば、美桜様の笑顔だった。
私のどんなことに対しても、彼女は笑ってくれた。
私にはそれが生きる糧となっていたんだ。
美桜様が坊主と出会い、外の世界に出るまで私は美桜様になにもしてやれなかった。
笑顔の消えた美桜様に、私は笑顔を戻すことはできなかった。
「…ほらよ」
奴は鏡を渡してきた。
渡されるままに鏡を見ると、長さのバラバラだった髪が肩の上で切り揃っていた。
後ろは肩につかないほど短いが、サイドの髪は後ろの髪よりも長くて、前下がりになっていた。
私はこれで…