色のない世界。【上】
「…おかえり!涼音」
この言葉だけで、あなたの笑顔を見るだけで、私がどれだけ嬉しいのかあなたには分からないでしょう。
何もなくなった私の心の隙間に日だまりのような温かさがスッと入り込んで、隙間を埋めるように私の中へ溶け込む。
ここが私の居場所だと教えてくれているかのように。
「おかえりってね?無事に自分のところに帰ってきてくれた時に言う言葉なんだって。
それでね!無事に帰ってきた人もその人に言う言葉が………涼音?どうしたの?泣くほどに傷が痛むの?」
違う。
これはあなたにそんな悲しい顔をさせるために流したんじゃない。
荒い手つきで目から流れる涙を拭う。
この言葉が好きじゃなかった。
これを言えばすぐに辛い修行に連れていかれるから。
その言葉があなたに言える日が来るなんて思わなかった。
あなたに言えば、好きじゃなかった言葉も好きになってしまう。
「…いま……ただいま、美桜様」
笑顔で答えれば、美桜様は目に涙を溜めて再び私を抱き締めた。
今度はしっかりと私も美桜様を抱き締めた。
あなたが笑顔でいてくれる。
あなたが笑顔でいられる場所(世界)がある。
その傍にいられるだけで私は笑顔になれるんです。
だからいつどんな時も笑顔でいてください。
あなたの笑顔が私の居場所なのだから。
【side end】