色のない世界。【上】
10.Sudden Visitor




九条院本家。
ここに再び美桜の兄弟達が集められていた。




「ねぇ、龍之介お兄様お聞きになられましたぁ?
湊がやられたって。しかもやられたのは涼音と手を組んだあの鷹沢組の若頭だったらしいですわ。


可哀想に。美桜を手に入れるのに失敗して、さらには涼音を取り逃がした罰で次期当主の権利を剥奪されたんですって。
嗚呼、ほんとうに可哀想だわ」




結子は扇子で自身を扇ぎながら、向かいに座る龍之介を鋭い目つきで見つめた。




龍之介は一瞬だけ結子を見てから、目を閉じた。




「可哀想、と言ってるわりには口調が随分と嬉しそうだが?」




龍之介の言葉に結子は大声で高らかに笑った。




「ハハハハッ!
嬉しいだなんて、そんなわけないでしょ?可愛い弟が無惨に負けてしまったのだから、悲しくて仕方ないわ。


湊はこういう会議に来たときの唯一の話し相手だったから、余計に悲しいわ」




でもまぁ…
結子は扇子で目だけを覗かせ、また扇子で自身を扇いだ。




そして先程より低い声で言葉を続ける。




「…これで次期当主の座が一歩近付いたと思うと、嬉しいけれどね」




結子は怪しい笑みを浮かべた。
相変わらずの性格の悪さに、龍之介だけではなくこの部屋にいる絵里香までも眉間にシワを寄せた。




ここに脱落した兄弟を悲しむ者などいない。




脱落した兄弟がいれば次期当主の座が一歩近付いたと言って喜ぶ結子のような者や、それには特に無関心な絵里香、龍之介、昴のような者や、次期当主の座にすら興味のない陽平のような者がいる。




ここはそういう者達が集まるところ。




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