色のない世界。【上】
美桜は俺に手を振るとご主人を見つけた犬のように嬉しそうに笑顔を見せながら駆け寄ってきた。
「…悠汰、おかえり!悠汰が帰ってくるの待ちきれなくてここまで来てしまったわ」
言葉が出ないとはまさにこのことだ。
夏帆達も口を開けたまま俺と美桜のやりとりを見ている。
クソ眼鏡だけは予想的中したとニヤニヤしながら見ている。
「あの美女鷹沢の女なのか?」
「鷹沢の女じゃ、手出せねーな」
「鷹沢くんに彼女いたの!?しかもめっちゃ美人!」
「えぇー、ショック~」
「でも美男美女すぎて敵わないよ」
周りの生徒達が徐々に騒ぎ出した。
そして固まっていた夏帆達もゆっくりと口を開く。
「ゆ、悠汰…?その子って……」
「…っ!?ゆ、悠汰!?」
答えるよりも先に美桜の手をしっかりと握り、その場から走り去る。
美桜は驚きながらも手を振りほどくことはせずについてくる。
周りを見ずに走り去ったせいで気づかなかった。
「…あれは確か……」
蘭子が眉間にシワを寄せ怪しむ目つきで美桜を見ていたことに。
【side end】