色のない世界。【上】
「皆さんご存知のように、黒女の導は黒女に次の黒女を産ませた者が九条院家の次期当主になるというもの。
ですが私のような女兄弟は、九条院家の親族である男を使って次期当主を狙うしかない。
それに満足しない女兄弟のために、九条院家長男がルールを追加したのです」
九条院家長男。
この言葉に美桜は体が固まる。
九条院家の兄弟達の誰もが抗えないその男を思い出し、絵里香の手を握る手に力を入れた。
俯く美桜を絵里香は一瞬悲しそうな表情を浮かべたが、次には真剣なものへと変えた。
「九条院家の次期当主になるには、黒女に次の黒女を産ませるか…
黒女である美桜を殺すか、そのどちらかをした者にする…と」
「…っ!?」
絵里香から出た言葉に、その場にいた全員が息を呑んだ。
誰もが言葉を出せずにいる中、絵里香は続ける。
「…皆、天下は自分の力で取りたいもの。
だから僕はみんなのために黒女の導にルールを1つ追加したと、兄は言っていました。
私は許せなかった。
誰もが美桜を"一人の人間"としてではなく、"次期当主になるための捨て駒"としか思っていないことに。
美桜は感情だって心だってある。
一族の操り人形でも道具でもない…歴とした人間なのよ……っ!!」
絵里香は声を荒げると、いきなり胸元の服を掴んで苦しみ出した。
「絵里香姉様!」
「絵里香様!」
美桜と真がほぼ同時に絵里香を呼ぶ。
絵里香は苦しんだまま背後に倒れた。
絵里香が倒れる前に斜め後ろにいた真が、絵里香を受け止めた。
それを見た美桜はすぐに喜史を見る。