色のない世界。【上】
「絵里香姉様は元々体が弱くて…
喜史様、絵里香姉様をどこか休めるところにお連れしてもよろしいですか?」
「分かった。
ヤマト!テツ!お嬢さんを空いてる部屋へ案内しろ」
「「へい!」」
廊下で話を聞いていたヤマトとテツが障子を開けて入って来た。
真は苦しむ絵里香を抱き上げ、喜史達に礼を言いヤマトとテツの後に続いた。
パタン
障子の閉まる音が沈黙の中で響いて聞こえた。
しばらくの沈黙の後聞こえてきたのは、喜史の深いため息だった。
「…また面倒なことになったな。
九条院家(あいつら)は人の命を何だと思ってやがるんだ」
喜史の表情は変わらないものの、声は怒りを含んだものだった。
樹は頭を抱える喜史を苦笑いして、心配そうに障子を見つめる美桜を見た。
「九条院家の人間ってのはあのお嬢ちゃんの言うようなおかしな奴等しかいねぇのか?」
ま、極道の俺が言うのも変だけどな。
樹は付け加えて言うと、一人で笑った。
美桜は障子から体の向きを正面に戻し、樹の自虐ネタに苦笑いして答えた。
「あのまともな絵里香姉様のお考えがおかしいと思えてしまうほどに、彼等の考えは他人と違っています。
自分が良ければいい。
自分が良ければ、他人が苦しもうが死のうが関係ない。
そういう人が集まる場所です、九条院家(あそこ)は」
「…なるほどね。そりゃ、狂ってるわ」
樹は着物の袖口から煙草を出し火をつけた。