色のない世界。【上】
beautiful cherry tree
今日も一日が終わっていく。
オレンジ色の夕日が窓から差し込んでくる。
三食の食事と辞書を読むだけの毎日。
退屈だと思ったことはない。
あと数ヶ月もすれば、この生活も終わり私は"道具"となるのだから…
昨日のあの男性と出会ってから、何だかいつもの私と違う。
私に何かが足りない、そう思うようになった。
あの人にもう一度会って話してみたい。
そう思うのもいつもと違うのかな…
どれがいつもの自分で、何がおかしいのか自分でも分からない。
でももうあの人と会うことはない。
『ご自分のことが大切なら、屋敷(ここ)には来ないで下さい。次こそ殺されます』
そう脅すように言ったから、もう来るはずない。
私は目を閉じて辞書を閉じた時だった。
「…やっぱりここ、学校の裏庭だったんだな」