色のない世界。【上】




「あなたの思ってる通り、私は黒女"だった"の」


「…だった……?」




語尾が過去形となったことに疑問を持ち、悠汰はそこを繰り返した。




絵里香は眉をハの字にして微笑み、ゆっくりと頷いた。




「…私も美桜と同じように産まれた時からあの屋敷にお母様と幽閉されていたの、黒女として。

何事もなかったら今頃私が黒女として黒女の導をこなしていた、美桜が産まれて道具になる必要はなかったの」




絵里香は僅かに震える手を力強く握る。




それに気付いた真は、絵里香に近寄り彼女の手を優しく包み込むように握った。




絵里香はありがとうの意を込めて真に微笑み、再び悠汰を見た。




「私は生まれつき体が弱くて、小さい頃から寝込んでいることが多かったの。

6歳になる前、医者に言われたの。
"この体では子供を産むのは無理だ"と」





絵里香の言葉に悠汰は目を丸くした。




黒女は16歳の誕生日に解禁となり、次の黒女を産むまで子を産まされる繁栄のための"道具"。




その黒女が子を産めないと宣告された。
それは絵里香では黒女の導が出来ないということ。




「それを知ったお父様は再びお母様で子作りを再開したわ。
私のせいでお母様がまた"道具"にされてしまったと、悔しくてたまらなかった。

それと同時に私は親族や兄弟達から冷たい目を向けられてきた」




絵里香は自分の手を包み込んでいる真の手を握り、優しく撫でる。




「悠汰さんは美桜から聞いたかしら?
子供を産めない黒女がなんて言われるか」




悠汰には絵里香の問いが全く分からなかった。




涼音が表情を険しくして顔を逸らした様子や九条院家の人間を知っていれば、最低な呼び名だとは感じる。




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