色のない世界。【上】
ふっ、おかしな人。
気づけば自然と口角が上がってしまう。
何だろう、この人のことを考えると自然とそうなる。
「…"感情"を知らない奴でも笑う時は笑うんだな」
考え事をしていたから、男性が小声で言ったことは私には届かなかった。
視線を感じ男性を見ると、男性はすぐに顔を逸らした。
「…今日は…昨日のお礼を言いに…」
「昨日のお礼…ですか?」
男性は顔を逸らしたまま。
少し頬が赤いようにも見えるけど…
夕日の光のせいかな?
にしても昨日のお礼とは何だろう…
私、この人にお礼をされるようなことしたの?
首を傾げて男性を見る。
すると男性は真っ直ぐに私を見つめてきた。
「昨日、俺を窓から出して助けてくれただろ?その…ありがとう」
「ありがとう」という時だけ男性は顔を逸らし、声も小さくなっていた。