色のない世界。【上】
鷹沢組を出て絵里香は車の中で美桜の温もりを噛み締めるように手をぎゅっと握った。
(美桜。あなたの言葉、一生忘れないわ。)
それを向かいに座っていた真は眉をハの字にして見つめる。
「……絵里香様…あのような別れ方でよかったのですか?
もう少し美桜様とお話ししてからでも……」
「いいのよ、真。
一生の別れってわけじゃないんだから。
…それに、いつまでもお客様をお待たせするわけにはいかないもの」
絵里香は先程の穏やかな表情とは打って変わり、真剣な表情を浮かべた。
まるでこれから起こることが予想できているかのように。
それからは無言のまま、絵里香と真は自分達の屋敷へと戻ってきた。
車から出るなり一人のメイドが駆け足で絵里香のところへやって来た。
「絵里香様……っ!
昨夜よりお客様がお見えです…昨日はお戻りにならないとお伝えしたのですが……どうしてもと仰られて…」
「そう。怖い思いさせてしまったわね。ごめんなさい。
その方のところまで案内してくれる?」
「は、はい!こちらです」
メイドの肩に優しく手を置いて、絵里香は案内を頼む。
絵里香と真はメイドの後に続いて屋敷へと入った。