色のない世界。【上】
案内された部屋には絵里香が予想していた人物が優雅に紅茶を嗜んでいた。
絵里香が来たことに気付くと彼はティーカップを置いて、ニッコリと笑った。
「やぁ、絵里香。美桜との久しぶりの再会はどうだった?」
「……文人…お兄様……!」
朝から完璧な笑顔を浮かべる文人に恐怖すら感じる。
文人の背後には護衛人の神が目を閉じて控えていた。
「ごめんね。絵里香が帰ってこないから、メイドに無理を言って客室に泊まらせてもらったよ」
「それは構わないのですが、そこまでして私に伝えたいことがおありなのですか?」
恐怖を感じていることを悟られないよう、絵里香はいつもの口調で尋ねる。
文人は笑顔を崩すことなく言葉を紡ぐ。
「僕の知り合いに名医がいてね?絵里香のことを長期で診てくれるって言うんだ。
絵里香も苦しむことなく暮らしたいでしょ?
彼はオーストラリアの医者でね、あそこは空気もいいと言うし、絵里香の体調も落ち着くと思ってね?
行ってみたらどうかなって思ってさ」
「……っ!」
絵里香はすぐに文人が言いたいことが分かり、握った手に力を入れた。
(これはつまり…国外追放……ということね……っ)