色のない世界。【上】
海外への長期の療養、それは九条院家次期当主の権利剥奪という意味の国外追放。
これは絵里香が鷹沢組へ出向き、美桜に会った時点で決まっていたと絵里香は考えていた。
「僕にしては寛大な処置だと思うけど、絵里香はどうしたい?」
今まで笑顔を見せていた文人の目が開き、絵里香を真っ直ぐに捕らえる。
絵里香は身体中に蔦が巻きついたようにその目に見つめられ、動けない。
有無を言わさないその目に刃向かうことなど、最初からできない。
「そうですね。
せっかくお兄様がそう仰ってくださるのなら、行ってみようかしら」
「ほんとかい?それは嬉しいね。
早速相手にも連絡するよ」
じゃ、僕はそろそろ帰るよ。
文人は残りの紅茶を飲み干して立ち上がった。
絵里香はすぐに部屋のドアを開けて文人が出れるようにした。
「…あ、そうそう」
文人は絵里香の横を通ろうとした時、絵里香の隣に並ぶようにして立ち止まった。