色のない世界。【上】




驚いて目を開けると目の前には男性の顔があった。
私の額に自分の額をつけて、こっちを見ている。




…な、何かな…?
私、おかしなこと言った?




「…悠汰」




「えっ?」




あまりに小声で言ったから、何て言ったのか分からなかった。
顔に息がかかりそうなほど近いのに。




しばらく見つめ合うと男性が目だけを逸らした。




「…"あなた"じゃない悠汰だ…鷹沢悠汰」




たかさわ…ゆうた…?
この人の名前だよね…?




きっと私がさっき"あなた"って言ったから名前を教えてくれたんだ。




他人から名前を言われるなんて初めてかもしれない。
今までは私が自ら覚えてきたから。




写真を見て名前を覚えるのが当たり前だったから、何だか変な感じがする。




私の口角が上がる。
そして私の口は自然と開いた。




「…はい、悠汰様」



< 29 / 268 >

この作品をシェア

pagetop