色のない世界。【上】
驚いて目を開けると目の前には男性の顔があった。
私の額に自分の額をつけて、こっちを見ている。
…な、何かな…?
私、おかしなこと言った?
「…悠汰」
「えっ?」
あまりに小声で言ったから、何て言ったのか分からなかった。
顔に息がかかりそうなほど近いのに。
しばらく見つめ合うと男性が目だけを逸らした。
「…"あなた"じゃない悠汰だ…鷹沢悠汰」
たかさわ…ゆうた…?
この人の名前だよね…?
きっと私がさっき"あなた"って言ったから名前を教えてくれたんだ。
他人から名前を言われるなんて初めてかもしれない。
今までは私が自ら覚えてきたから。
写真を見て名前を覚えるのが当たり前だったから、何だか変な感じがする。
私の口角が上がる。
そして私の口は自然と開いた。
「…はい、悠汰様」