色のない世界。【上】
名前…私の…?
私は人生で3回目の驚いた顔をした。
だって私の名前を聞かれるのは初めてだったから。
だいたい私を見る人は、私のことも名前も既に知っていた。
だから名前を聞かれるなんてなかった。
初めて自分の名前を自分の口で言う。
私の名前は、お母様がつけてくれた。
一族の"道具"として産まれた女性には必ず一文字、この漢字をつけて名付けると言っていた。
「…私の名前は…"みはる"。"美"しい"桜"と書いて美桜です」
私は外にある桜の木を見る。
桜は満開に咲き誇っている。
私の視線に釣られたのか、悠汰様も桜の木を見ている。
「…美桜…か。いい名前だ」
そう言って悠汰様はふっと笑って去っていった。