色のない世界。【上】
表現出来なくて、気持ちが沈んでいく。
自然と顔も下に向いてしまう。
そんな私を見ていた悠汰様が口を開いた。
「…"美味しい"って言うんだよ、こういう時は」
「…お、おいしい…?」
顔を上げて首を傾げる。
悠汰様はそんな私を見つめたまま言葉を続ける。
「食べた瞬間に自分にとって好きだなぁと思った時言う言葉だ。このパン好きと思ったんだろ?」
私は言葉が出ず、ただ黙ってコクリと頷いた。
それを見た悠汰様はふっと笑った。
「そういう時に"美味しい"って言うんだ」
この言葉を聞いた途端、私の世界が広かった気がした。
"おいしい"この一言だけで、"外の世界"のことを全て知れた気がした。
「…おいしい…おいしい!」
自然と出た笑顔。
私は生まれて初めて"おいしい"食べ物を食べた。