色のない世界。【上】
そして何より性格が親父と似てる。
つまり裏表があるってこと。
梨緒は大皿をテーブルに置くと、兄貴に近づいた。
そして耳元で一言。
「…次悠兄からかったら、鳩尾(みぞおち)に一発拳はいるから」
いくら小声で言ってても、この静かな大広間では筒抜け。
だから苦笑いするしかない。
でも梨緒の目は笑ってねぇ。
こいつは俺には特にこういう裏の顔を見せねぇけど、兄貴や組員にはことごとくこの顔を見せる。
それを見てチビる組員も多くない。
俺がまだ標的じゃないだけ奇跡に近い。
さすがの兄貴もこの梨緒には苦笑い。
そして梨緒には逆らえない。
そんな梨緒は俺に笑顔を向ける。
「…もうちょっとで夕飯出来るってお父さん言ってたから、待っててね悠兄」
この笑顔もある意味怖い。