色のない世界。【上】
失礼しますと言って俺は下座に正座した。
胡座なんてこの方の前ではかくことなんてあり得ない。
鷹沢 譲司(たかさわ じょうじ)。
若の祖父にあたり、組長の親父。
鷹沢組の前代組長で今は皆から「大将」と呼ばれている。
大将に会えるのは若のような身内や大将の頃に仕えた組員のみ。
当然、俺のような若の側近はめったなことがない限り会えない人。
今回俺が会うのは初めてだ。
俺を見る鋭い目は表の顔の組長に似ている。
でもそれが逆に俺を威圧する。
大将はキセルを口からとって、ふぅと煙を吐いた。
「…まぁ、そう固くなるな。別にお前をとっちめようとはしてねぇんだ。ただ聞きてぇことがあるだけさ」
「…俺に聞きたいことですか?」
大将ともあろう方が俺に聞きたいことがあるとは。
大将は俺よりも色んなことを知ってると思ってたから、聞かれたのが意外だった。
そして聞かれたことも意外なことだった。