色のない世界。【上】
重文様は私の胸倉を掴んで起き上がらせた。
「守るだけの"道具"が"道具"にでも情が移ったか。お前の主人はあの"道具"ではない、この私だ。"道具"は主人に歯向かうなど言語道断。それを自覚して私の言うことを聞け」
私を見る重文様の目はまさに"道具"を見る目だった。
そして言いたいことを言い終わると私の胸倉を離した。
私は再び床に倒れた。
あの目で見られて、私の身体には力が入らない。
「…凱斗!」
重文様は護衛人の名前を読んだ。
すぐに部屋にスーツ姿の執事のような容姿の男性が入ってきた。
「旦那様、お呼びでしょう…か…」
男性は私を見るなり言葉を詰まらせた。
こんなの見慣れてるくせに。
チッ
私は誰にも聞かれないように舌打ちをした。
「時雨、桜花にもやったあれを美桜にもやれ。涼音では信用ならんからな。お前が美桜につけろ」