鍵盤になりたくて
スタッフルームに入って見えたのは、軽くネクタイを緩めた要さんが携帯をテーブルに置いた姿。
いつもは明るいとは言えない空間でしか、カウンターに座ってしか見た事がなかった要さんが…
明るい部屋で見る要さんはやっぱり素敵で、自然と目が行くのは指先だった。
「ファンを連れてきた」
「ファン?」
「うん。この子なんだけど要の弾く曲が大好きで、いつも演奏を聴きに来てくれてる」
マスターに背中を押されるように前に出た私は、目の前に立っている要さんにただただ驚いていた。
自分で来て驚くなんて可笑しいかもしれないけど驚いてしまう。
今、この現実に。
「はの!じゃ、なくてあの」
思わず噛んでしまった私は恥ずかしくなり俯き花束を差し出した。