鍵盤になりたくて



「顔上げてもらえない?」

「……っ、はい」





恐る恐る顔を上げると私の買った花束を抱える要さんがすぐ目の前に立っていて、その要さんの目が私に向いていて。


――もう、心臓が痛かった。





「わざわざ、ありがとう」

「迷惑じゃないですか?あの、ニュースで見て」

「ああ、映画の?」

「はい。あの曲大好きなんです。私、このバーに初めてきた時に要さんが弾いてて。その日からあの曲が好きになって、それであの、その曲が映画に使われる事になったって聞いて」





緊張とドキドキで言葉がなかなか出てこなかったはずだったのに、今はたくさんの言葉を要さんに向けている。


そんな自分に驚きながらも、後悔したくないからちゃんと伝えようと思った。


目の前にいる要さんに言葉を。



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