鍵盤になりたくて
「好きなんだ?」
「はい。優しくて涙が出るようなあの曲が大好きです。私、ぜんぜんそういう曲知らなくて。でもあの曲を知ってからピアノが大好きになりました。不思議ですよね、ピアノって」
「不思議?」
「要さんの指が動いて、あんなに素敵な曲が聞こえるなんて不思議です」
もっといい感想を言えたらいいのに、なんでいい感想が言えないんだろう。
「ありがとう。嬉しいよ」
そんな私の感想に要さんは口角を上げると、私の大好きなあの指先がスーッと近づいてきた。
そして――
「あの曲を、そんな風に思ってくれてありがとう」
私の頭をポンポン、と撫でてくれたんだ。
好きで大好きで愛してしまった要さんの指先で私の頭を。