鍵盤になりたくて
私の大好きな大好きな指先が私に触れている。
いつも思っていた。
私は鍵盤になりたいと。
そう思わずにはいられないくらい要さんの指先に夢中だったから。
「ご、ごめん!イヤだった!?」
ボロボロと涙を流す私に要さんはビックリした表情になる。
「ちが…っ、嬉しくて…」
「そう?」
「はい。要さんの手は、魔法だから」
――そう、魔法。
「要さんの指先は魔法みたいに、優しい音を出すから…、ピアノを弾く要さんの手は不思議で、そして魔法です」
きっと私はこの日を一生忘れる事はないだろう。
これ以上の幸せなんてない。
……だってこれ以上、要さんに近付ける事はないんだから。