鍵盤になりたくて
それでもやめられない。
どんなに気持ち悪くたってやめられないの。
「今日も素敵でしたね」
「ええ、要の腕は一流です」
「次は…」
「来週また来ますよ」
良かった。
来週もここに来れば要さんに会えるんだ。
ホッとした私はカクテルを飲み干して微笑む。
「本当に好きなんですね」
「はい、だって凄くないですか?10本の指が滑らかに動いて綺麗な音がなるなんて」
そうですね、とマスターも微笑むとおかわりをつくってくれた。
「要も嬉しいと思いますよ」
「え?」
「あなたは要の容姿ではなく要の弾く音楽が好きだからと言って聴きに来てくれている。それは要にとって一番の誉め言葉ですからね」