鍵盤になりたくて
――えっ、要さんに裏で?
そんなマスターの言葉に涙が出そうになった。
だってまだ一度も私は要さんと話した事がない。
話したいなと思っても話しかける勇気も出待ちする勇気もなかったから、こうしてカウンターに座って要さんを見てるだけで胸がいっぱいになるから、これ以上の贅沢は望まないって思ったから。
「い、んですか」
「要も喜びますよ」
涙を堪えて私は大きく頷いた。
それから間も無くして、要さんがやってきた。
ゆっくりグランドピアノの前まで行き、座ると深呼吸をして弾き始める。
その瞬間から私は呼吸をしてないんじゃ…?と思う程に真剣に要さんだけを見つめていた。
やっぱり、好き。
要さんの手がとてもとてもとても大好きだ。