精霊の謳姫

慎重に、こくりと頷く。


口許を覆っていた色白な彼の手がゆっくりと離され、そのまま肩に置かれた。

急襲の犯人がノヴァ本人であることに、ドッと力が抜けるようだった。

何故こんな真似をするのかはさっぱり分からないが、拘束されたのがもし賊や怪人だったらと思うとノヴァであって良かったと安堵してしまう。


すっかり緊張感を無くしたリディアに内心でため息を吐くも、彼は当初の目的のために口を開いた。



「…リディアは外に出たいと言った。
でも外の世界は君が思っているほど、
美しい場所じゃない。

それでも行きたいの?」



彼の問いかけに、
リディアはまたこくりと頷く。



「うん…行きたい。
せっかくこの世に生まれたんだもの。
その世界を見ることなく、壁の中で一生
を終えるなんて嫌なの。」


「それは、
___今の身分を失うことになっても?」


「…え?」



何故そんなことを聞くのだろうと思いつつも、質問はなしだと言われた手前。
リディアは素直に答えることにする。



「そう…だね。
第五王女の身分と自由を計りにかけたら、
きっと私は自由を選ぶ。

…でも、それは”身分”の話であって、
それでノヴァ達との関係が絶たれてしまうと言うのなら私は自由を捨てると思う。」



その言葉に嘘偽りはない。
彼らがいない世界を、私は生きていける
自信がない。



「…分かった。
じゃあ、これで最後の質問。」



ノヴァは少しだけ間をおいて、そう言った。

動きを封じるはずだったその腕に、少しだけ力が入ったことを、果たして彼自身は気がついていただろうか。




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