精霊の謳姫
『わ…!』
床の一部分に文字が走り、緑に光を放ったかと思えば、次の瞬間には平面だった床が地下へと続く階段に変わっていた。
『す、すごい!』
冷んやりとした空気と共に、薄暗い大理石の階段が口を開けている。
更にノヴァが杖を軽く振ると、赤い精霊が暗闇を駆け抜け、暖かなオレンジの光が地下を照らした。
『さ、時間がないから早く降りて。』
階段を覗き込むリディアを見て、事もなげなノヴァが淡々とした口調で言う。
『ノヴァは?』
『ここ、開けっ放しで行くわけに行かないだろ。後から行く。…アレン』
名前を呼ばれたアレンはこくりと頷くと、興味津々なリディアの手をとって彼女を階段へと促した。
…最後に残ったノヴァは、胸の前で杖を立て、その青い片目をゆっくりと閉じた。
小さく息をつき、紡がれるのは短い呪文。
張った糸が切れるかのように、主の消えた空間が僅か震える。
刹那、
それを合図に、その場は一瞬にして闇に包まれた。
…暗闇の中、漏れていた橙色の光は次第に消え、石の擦れる音が響く。
この部屋に再び明かりが灯ったのは、
彼らが消えて僅か三十分後のことだった…
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