精霊の謳姫
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木製の荷台がガタゴトと軋む度、吊るされた申し訳程度のカンテラの明かりが右に左に揺れ動く。

路地裏からノヴァの移動魔法を使って国外に出た一行は、通りすがった乗合馬車に乗り込んだ。


リディアはノヴァの肩に体を預け、すっかり眠りに落ちてしまっている。



「…本当、呑気なもんだよ。」



ぽつりと、無防備な主君に嫌味を呟くノヴァだったが、見つめる瞳は言葉に反してとても穏やかであったのを、アレンは苦笑混じりに見ていた。

なんだかんだと姫を貶しても、やはり根底にあるのは深い慈愛なのだろう。


そして、それはきっと…




「これで、良かったのでしょうか。」



…彼自身も。


大切な人だからこそ、慎重にならざるを得ない。

全てを知った時、主は現状を望むだろうか?
これは自分達のエゴなのではないか?

彼女にとって、こうすることが本当に最良の道だっただろうか?


城を出てからというもの、そんな自問自答を繰り返しては、鬱々として気持ちが晴れなかった。


憂い気なアレンを横目で見やってから、
ノヴァは揺れるカンテラへと視線を投げた。



「良かった、だなんて断言出来ない。
そんなこと、本人にしか分からないんだから考えたって答えなんて出ないよ。」



それは至極最もな答えである。

どんなに悩んでも、切りのないことと分かってはいるのだが、
しかしそれでも考えずにはいられない。

当人に聞くことが出来たならどれほど良いだろう。


魔剣士としての修行の日々で、悩む時間は余る程あったアレン自身でさえ、未だ割り切れない想いに悩んでいるのだ。



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