エターナル・フロンティア~前編~
「で、彼女は結婚した」
「何で、わかったんだ!」
「う、嘘」
無論、ソラは何も知らない。適当に言った言葉が、偶然急所を突いてしまった。顔を両手で覆い、肩を震わすカディオ。こうなると、どのような言葉を掛けていいのかわからなくなってしまう。ソラは腕を組みながら、適当な言葉を探していく。そして、ひとつ思い付いた。
「子供と、幸せに暮らしているよ」
「そうだよ。二人目が産まれるらしい」
元気を出してもらうと思って言った言葉は、逆効果を生み出す。二人目の出産が近いとは、何と間が悪い。それに余程その女性に未練があるのか、泣き崩れる姿が痛々しい。人生最大の失恋を味わったのだろう、それでもカディオの立ち直りは早い。その証拠に、ソラは過去を語りだす。
何年前の出来事なのかは、不明であった。そして今は別の女性を追い掛けているのだから、恋多き男というのは伊達ではない。すると、予想以上に早い復活を果したカディオは徐に前髪を掻き揚げると、ソラに食って掛かる。だが、逆にそれが惨めな一面を生み出してしまう。
「適当だった」
「かなり、痛かったぞ」
「まあ、気にするな」
勝手に連れて来た仕返しとばかりに、ソラは刺のある言葉を発していく。予想外の反撃にカディオは、素直に負けを認めるしかない。体力面では勝るカディオであったが、口では勝てない。
それだけソラは頭の回転が速く何より弁論に長けているので、勝ち目など最初からない。それでも恋愛の策略ではカディオが上手であったので、互いの得意分野で攻撃を仕掛けていく。
「で、どうするんだ?」
「行くに、決まっているだろ」
「だから、今は講義中だ」
その言葉にカディオは人差し指を垂直に立てると、不適な表情を浮かべつつ横に振る。どうやら何やら考えがあるようだが、碌でもない考えだと判断したソラは、思わず嘆息する。
それは、カディオの計画が上手くいった試しが殆どないからだ。見つかって捕まり、そして晒し者になる。図太い神経の持ち主であるカディオなら、捕まっても笑っているだろう。しかし、ソラはカディオのような神経の持ち主ではない。それに、イリアがどう思うかわからない。