エターナル・フロンティア~前編~

「大丈夫かな」

「大丈夫です。おお、人だ」

 カディオがぶつかった相手は、何と人間であった。それも、二十代後半の男性。その者は知的というイメージが似合い、爽やかな印象を持っていた。男は、アカデミーの生徒とは明らかに違った。

「部外者だね」

「わかりますか?」

「怪しい人物に声を掛けられたと、生徒達が騒いでいたのを聞いた。それは、君だったのか」

 どうやら、恐れていたことが現実となってしまった。カディオは苦笑いをしつつ頭を掻くと、深々と頭を下げた。そして自分自身が行ってしまったことを、洗いざらい喋っていく。

「僕に謝られても困る」

「あれ? 此方に勤めている方じゃ……」

「おい! 何をしている」

 カディオの言葉を遮るように、ソラの声が響く。行方不明になったカディオを、捜していたようだ。

「ソラ、関係者を発見!」

「また、生徒に……」

 次の瞬間、ソラは言葉を詰まらせてしまう。カディオの横に立っている人物に、見覚えがあったからだ。ユアン――何とカディオがぶつかった人物は、ソラが嫌いな相手であった。

 反射的に、視線を逸らしてしまう。そんな失礼な態度にカディオが注意をしてくるも、ソラはそれを聞き入れる余裕はない。まさに、会いたくない人物に会ってしまった。全身でそれを表現するソラに対し、ユアンは微笑を浮かべつつ淡々とした声音で彼の名前を呼んだ。

「知り合いですか?」

「知り合いも何も、僕が彼の世話をしている」

「じゃあ、あの有名なラドック博士!」

 有名人を目の前にし、カディオは興奮を隠しきれずにいた。ユアン・ラドックといえば、知らない人がいないほど有名な人物。天才の名を欲しいままにし、若くして高い地位につくエリート。

 カディオは嬉しそうに握手を求め、子供のように喜んでいる。その姿に冷ややかな視線を向けているソラは、内心複雑で舌打ちをしていた。カディオが、このような反応を見せるとは――だが、同時に「大人気ない」という感情が生まれ、ソラは仕方ないと諦めることにした。
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