エターナル・フロンティア~前編~
この墓は死亡したという証のようなものであり、それ以外の意味はない。よって花を捧げるのは無意味の行動とも取れるが、死んだ者との唯一の接点はこの墓しかない。だからこそソラを含め、仲間達は死んだ者を思い続ける。非情な行為で死んでいった魂の平穏を願い――
「俺って、場違いかな?」
「いきなり、どうした?」
「俺は能力者じゃないし、ソラ達の気持ちはわからない。そんな奴がいていいのかなって、思っただけさ」
「カディオは、偽善者じゃないからいいよ」
先程からソラが発する言葉のひとつひとつが、カディオの心に微かな痛みを与えていく。それは何も知らずにのうのうと暮らしている者達への警告とも思え、遣る瀬無い気分に陥る。
ソラが言うように、カディオは偽善者ではない。どちらかといえば馬鹿正直で、ソラを困らせることが多々ある。だが、彼にしてみたら、そのような性格の方が付き合い易かった。
相手の気持ちを理解しているように振舞われるほど、嫌なものはない。所詮、能力者でない人間に彼等の気持ちなどわからない。しかし一部の人間の中には、能力者の気持ちを理解したように語る者もいる。まるで自分は差別を嫌い、博愛精神を持っているかのように。
そのような人間ほど、能力者を嫌っている。それなら大声で「嫌い」だと言ってくれる方が、まだいいものだ。所詮、偽善など自己満足に過ぎない。自分自身を偉く見せる、いわば道具だ。ソラは、そのような人物を多く見てきた。性別や年齢は様々だが、ひとつだけ統一されてところがある。
――自己陶酔型。
それは実際に見てきたからこそ、言える言葉であった。カディオも様々な意味合いで当て嵌まる部分が存在していたが、其処に嫌味が存在していない。一種の天然行為であり、腹立たしいという感情が湧いてこなかったが、彼等は異なる。偽りで、多くを惑わしていく。
「カディオなら、友人になれていた」
「それは、嬉しいな」
「皆、お前のような性格であったら、世界は平和でいられる。だけど、嘘で塗り固められた世界は汚い」
その時、雷鳴が響き渡った。その音にソラは視線を遠くに向けると、真っ黒い雲が此方に向かって流れてきていることに気付く。それに先程より、雨が降る寸前に漂う独特の香りが鼻腔を擽る。それは不思議な香りであったが、特に不快なものではない。それどころか、懐かしかった。