エターナル・フロンティア~前編~

「踊りじゃない」

「踊りだよ」

「この筋肉が見えないのか」

「気持ち悪い」

「うわ! 厳しい」

「煩い! 踊るな」

 車内という狭い空間で筋肉自慢をはじめたカディオに、ソラは間髪いれずに突っ込みを入れていく。それは言葉だけでは治まらず、拳が何度も飛ぶことになってしまった。どうやら相手がカディオの場合、手を飛ばさないと治まらない。よって、殴る叩くは日常茶飯事。

「ど、どうしてだ」

「最近、殴らないように努力はしている」

「殴っているじゃないか」

「手加減は、しているつもり」

「ど、どこが」

 これは、一種のコミュニケーションのようなものであった。カディオに対しこのように言っているが、心の底から憎らしいと思ったことはない。それどころか、このようにやっているのが面白い。

 その時、カディオはとあることについて尋ねてきた。それは、幼少期のソラについてだ。雷の話を切欠に、少しだけ語られた過去。それは断片的なものであって、詳しく語られることはなかった。カディオは、そのことが気になったという。しかし、無理強いはしてはいけない。

「知りたい?」

「まあ、話してくれるのなら」

「いつか、話してやるよ」

「そうか……気長に、待っている」

 口許を緩めていたが、何処か表情が暗かった。カディオは、ソラの過去を知らない。父親と共に現在の場所に引っ越してきたということまでは知っているが、それ以前は謎が多い。

 一体、何処で何をしていたのか。ただ、ひとつの点だけは知っていた。それは、母親が死んでいるということ。どのような理由で亡くなったのかは話してはくれず、カディオも聞く気はない。

 人の過去に土足で立ち入ることがどのような意味を示しているかくらい、カディオは知らないわけではない。だが、気にならないといったら嘘になってしまう。ソラが話してくれることを待ち、時を過ごす。このように見えて、彼は公私の使い分けは上手い。そして、相手の心を察することも――
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