エターナル・フロンティア~前編~
「卒論は、終わったの?」
「一昨日、合格を貰ったわ」
「卒業は?」
「大丈夫。単位は取ってあるし、出席日数も足りているわ」
何とか金を借りようと必死に食い下がるが、ヘレンの表情から察するところ卒業旅行は反対の様子。その大きな理由は、遊び呆けているということであった。いつまでも、学生気分ではいられない。素早く気持ちを切り替えなければ、科学者(カイトス)として生活できないからだ。
ヘレンは長く夫の姿を見ているので、科学者の苦労や辛さを理解している。無論、イリアもそれを理解していたが、学生と本職が別。いくら同等に扱われていたとはいえ、多少の差は存在した。そのこと気付いていないイリアは、珍しくヘレンの意見に異論を唱えていた。
「遊べるのは、学生のうちだけだもの……」
「そう言って、就職後も遊ぶのでしょ?」
「就職後は、仕事が忙しくて……」
だからこそ、今のうちに遊んでおきたい。それがイリアの考えであったが、簡単に受け入れられるものではない。学生のうちに――そのように言って、何度遊びに行っていたか。流石にその時は金の催促はしなかったが、このように何度も重なると「行っていい」とは言えない。
「頑張っていたことは、知っているわ。でも貴女は、科学者として生活していくことを選んだのよ」
「そのくらい、わかっているわ」
「わかっていないわ。お父さんを見ているでしょ? 大変な研究になれば、何週間も帰ってこなかったりと……」
ヘレンは、日頃のストレスをぶちまけていく。旅行ひとつでここまで怒られるとは思ってもみなかったイリアは、萎縮してしまう。しかし、彼女も負けてはいない。ポツリポツリだが、異論を唱える。これもまた母親同様、溜まったストレスを発散させるものであった。
「自覚を持たなければいけないというのは、お母さんの見栄でしょ。私は私で、一生懸命にやるわ」
「世間を知らない子供が、大きいことを言わない」
「私は、大人よ」
突然はじまった親子喧嘩に、ダニエルは何も言うことができなかった。たとえ親子同士であろうとも、同性同士。その結果、想像以上に白熱した喧嘩になってしまう。まさに、売り言葉に買い言葉。女二人に挟まれているダニエルは、妻と娘の喧嘩に頭痛を覚えてしまう。