エターナル・フロンティア~前編~

 暫くその喧嘩を眺めていると、ダニエルは徐に口を挟む。その言葉に二人はピクっと身体を震わせ反応を見せると、声がした方向に視線を向ける。そして一言「御免なさい」と、謝った。

「このようなことで、喧嘩をしないでくれ」

「……すみません」

「今回の旅行だが、行かせてやってもいいだろう。あの研究所に、就職をしたんだ。祝いと思えばいい」

「あなたが、そう言うのなら」

 流石にそのように言われたら、ヘレンは素直に従うしかない。それに、イリアの就職先の凄さは理解していた。優秀な科学者が集まる研究所――それだけで喜ばない親は、いない。

 先程まで喧嘩を行っていたヘレンであるが、心の中では喜んでいた。

 うちの子が――

 正直、今でも信じられなかった。

 だがそれは、紛れもない真実。

 このような背景があるからこそ、ヘレンは娘の行動を心配した。あの場所は、普通の就職先と思ってはいけない。しかしイリアは、そのことをわかっているようでわかっていない。

 へレンが言うようにイリアは現実を見ておらず、理想の中で生きている娘に溜息しかもれない。親の気苦労を理解していないイリアは旅行に行けることを喜び、嬉しさのあまり父親に抱きつく。

「お父さん、有難う」

「今回は、きちんと予定を守りなさい」

「はい。わかりました」

 その言葉に心配要素が強いのか、ダニエルは頭を掻いていた。それは、以前の旅行のことが関係している。予定通りに帰宅しない娘。それだけでイリアに対しての評価が落ちだが「娘だから」と、甘い一面を見せる。そのことにヘレンは気付いていたが、特に何も言わなかった。

「で、いくら必要なんだ」

「それは、まだ決めていない」

「決まったら、早めにいいなさい」

「できれば、高くない方がいいが……」

 その言葉にイリアは無言で頷くと、抱きついていたダニエルから離れる。そして床に置いてあった荷物を手に取ると「部屋に行く」と告げ、その場から立ち去ってしまう。それは一瞬の出来事で、娘の態度に何か思うことがあったのだろう、ダニエルとヘレンが溜息を付く。
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