エターナル・フロンティア~前編~

 クリスの話では「水着の美女は、男の願望」らしい。しかしソラはクリスと同じ性格を有しておらず、ますます困ってしまう。それ以前に、このようなことに免疫がない。目の前に水着の女性が現れたら、逃げてしまう。ソラは恋愛面の経験は少なく、初といっていい。

 これも、日頃の生活スタイルが関係していた。クリスは仕事に関しては真面目にこなしていくが、プライベートに関してはこのようなもの。リゾート地に行けば、ナンパは絶対だ。

 真面目と不真面目を上手く使い分けていると思われるが、いかんせんその部分はソラには理解できない。このままこの場にいると、周囲から何を言われるかわかったものではない。ソラは満面の笑みを浮かべているクリスの背中を押すと、そのまま駐車場まで連れて行く。

「別に、構わないじゃないか」

「オレは、困ります」

 それは必死の訴えであったが、クリスが聞き入れることはない。すると何を思ったのかクリスは後部座席に荷物を置くと、ソラの首に腕を回す。そして、人差し指で頬を突付きはじめた。

「今年で、いくつだっけ?」

「二十歳になりますが」

「なら、異性に興味を持て」

「何故、命令形なのですか」

「持った方が、人生豊かになる。それにあらゆる面が薔薇色に見え、人生に張り合いが出る」

「それは、貴方の場合では……」

「友人は?」

「カディオは……それに、水着の女性などとは……いや、あの性格だと何と言いますか、その……」

 その言葉を発したことに恥ずかしくなったのか、徐々に赤面していく。二十歳になる男とは思えない態度に、クリスは大笑いをしてしまう。その笑いにソラは、反論ひとつできなかった。

 無論、クリスはソラの性格を知っている。知っているからこそ、時折このようにからかって遊ぶ。傍から見れば「虐め」と勘違いされてしまいそうな行為だが、クリスは本気で行ってはいない。

 ソラは、それについて知っていた。物事には、踏み込んでいい場所と悪い場所が存在する。だから何も知らない者や長く付き合っていない者は、気軽に冗談を言ってはいけない。それほど能力者は傷付きやすく、トラウマと化し易い。繊細で弱く――タフな能力者は少ない。
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