エターナル・フロンティア~前編~
この先は――
イリアの心の中に、そのような感情が渦巻いていた。それに今日は待ちに待った日なので、母親に門限を指定して欲しくなかった。約束の時間に遅れてしまったら、大事な相手を待たせてしまったら、悪い印象を与えてしまう。これでは、今まで世話になってきたクラスメイトにいい思いをさせることができなくなってしまうので、イリアは早々に話を切り上げる。
「イリア!」
「友達が、待っているの」
「それとこれは、別の問題よ」
「で、でも……」
「子供を心配しない親は、いないわ」
「もう、自由にして」
許容量の限界を迎えた感情は、罵倒という形を借りて外に出てしまう。突然の娘の本音にヘレンは驚いた素振りを見せるも、徐々に悲しい表情へと変化していく。今までイリアは親の言うことを素直に聞くいい子だと認識していたが、それは親の驕りに過ぎないまでは気付かなかった。
ヘレンは、涙ぐむ。
しかし、イリアは特に反応を示さない。
「……いってきます」
返した言葉は、それだけ。
そして、扉が閉まる音が響く。
それは、とても虚しいもの。
「ああ、どうして」
イリアは、別人になってしまった。それは受け入れなければいけない事実だが、それを簡単に行うことはできない。アカデミーで、何があったのか――講義の内容や友人関係に詳しくない者に、真意を導き出すのは不可能に近い。それにイリアは、自分の生活面を話そうとはしない。
科学者を目指すイリア。
別に、そのことは構わない。
だが、このままでは――
真面目に、仕事を行っていくことができるのか。
しかし、それを指摘することはない。
イリアは、ヘレンの言葉を聞き入れない。それなら、父親の言葉は聞いてくれるのか。それは、否。イリアは、ヘレン以上に父親を嫌っていた。それを考えると、両親の言葉は無用となってしまう。誰か指摘してくれる人物はいないのか考えるも、残念ながら心当たりはいない。