エターナル・フロンティア~前編~

第三話 媚薬


 大事な出来事。

 イリアは今、それが自身の身に訪れていた。相手は、ユアン・ラドックという多くの者から注目を集める人物。イリアは憧れの人物と同時に尊敬の眼差しを向けているが、他の者は違っていた。クラスメイトを含めファンクラブの会員全員は、彼に恋愛感情を抱いている。

 一体、誰を選ぶのか――

 ユアンの寵愛を受ける人物が、気になってしまう。

 しかしイリアは、気にしていない。だが、相手に失礼な思いをさせてはいけないと、着飾った。

 だから――

 母親の言葉が、辛かった。

 全ては、ユアンに認めてほしい。その一身で、突き進む。そして、イリアは待ち合わせの場所へ向かう。


◇◆◇◆◇◆


 人生ではじめての体験は、今までの中で一番の衝撃的な出来事だった。その為、心臓は激しく鼓動している。落ち着け――何度も言い聞かせるが、心臓は更に鼓動が強くなっていく。

 ファンクラブの者達がこのことを知ったら、嫉妬心を抱き一斉に攻撃を仕掛けてくるだろう。会員の全員の本心は、どす黒い。女の醜い感情を前面に出し、相手を殺してしまう確立が高い。

 愛している人物が、奪われてしまうというのなら――これは危険な思想であるが、これは事実。人間は、綺麗な一面だけで生きてはいけない。だからこの黒い感情は、人間としては正しい本質。

 一人の人間の為に何故――

 イリアは、気付いていない。

 自分が、危険な道を辿ってしまうことを。

「おはようございます」

「ああ、おはよう」

「少し、遅くなりました」

 イリアは、ここぞとばかりに破顔を作る。何事も、第一印象が大事。それに、相手はユアン。将来、自身の上司になるかもしれない人物なので、懸命に自身のいい部分を売り込む。勿論、ぎこちない態度を生み出してしまうがイリアは「認めてもらう」という心情で動いた。
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