エターナル・フロンティア~前編~

 そして――

 夢は大きい方がいいというが、相手は偉大で遥か遠くに存在している。そのような人物と仲良くなるには、どうすればいいのか。アピールといっても「何か」という物が思い付かない。

 だからといって、我が身を切り売りはしたくはない。ユアンを尊敬しているが、恋愛感情を抱いているわけではないからだ。それにそのようなことをしたら悲しむ人物がいるので、迷いが生じる。

「車を出す」

「あっ! 待って下さい」

 イリアは急いでシートベルトを着用すると、ユアンにすまないという気持ちを表す。だが、ユアンの感情と態度は先程と一緒。彼にとってシートベルトの着用は、大事に分類されない。

「では、改めて出発」

「はい」

「二回目だね」

「えっ!?」

「一緒に、車に乗るのは」

「そ、そうでした」

 ユアンの言葉に、以前の出来事を思い出す。あの時は、一緒に食事に行った。そして、今日は――

 心臓が、激しく鼓動している。先程は緊張していなかったというのに、狭い空間にいると意識した瞬間、正常が感情を保つことができなくなっていく。イリアは何度も頭を振り落ち着くように言い聞かせていくが、相手が悪すぎた。やはり、尊敬の相手――想像が膨らむ。

 それは、ひとつのシュミレーションを生み出していく。それは共に研究をしているというもので、尊敬している相手と一度は経験したい。それはイリアの夢のひとつで、いまだに叶っていない。

 その結果、妄想という名前を借りて外に出てしまう。しかし言葉に出すことはせず、気付かれないように必死に隠す。だが、それが逆に違和感を生み出してしまい、ユアンは瞬時に気付く。

 それでも遅刻の件といい、何も言わない。

 それが、ユアンの優しさ。

 言葉に出してしまったら、イリアは今以上に動揺してしまう。ユアンの心遣い――それが適切かどうか不明であったが、イリアはそうだと勝手に思っている。憧れの相手に色々と当て嵌めていくのは乙女の妄想としては一般的のもので、特に相手が偉大だと過度に発展する。
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