エターナル・フロンティア~前編~
ユアンが期待していたこと。
それは「手伝います」という言葉。
しかし、イリアはそれを言うことはなかった。それどころか、完全に固まってしまっている。
当初、ユアンは手伝ってほしいとは思っていた。そう、女性として生きているのだから「手伝います」という言葉を言ってほしかったのだ。だが、イリアはソファーの上で硬直している。こうなってしまうと無理に頼むのは可哀想と判断したユアンは、黙々と準備を進める。
(インスタントで、いいか……)
コーヒー豆を一から挽いて、コーヒーを用意してもいいと思った。しかし早くコーヒーを用意し、気持ちを落ち着かせてやらないといけないので「インスタント」で、用意をした。
ユアンはポットに並々と水を入れると、それを沸かす。そしてマグカップをふたつ用意すると、無造作にコーヒーの粉末を入れていく。その時ユアンは、小さい悪戯をした。そう、イリアのマグカップの中にちょっと多めの粉末を入れた。一体、どのような反応を示すのか。
それは、ただのお遊び。
特に、相手を懲らしめるという意味はない。
だから、クスクスと笑っている。
「――どうぞ」
「有難うございます」
イリアの目の前に、マグカップを置く。明らかに中身が濃いが、それでもイリアは気付いていない。それが普通の色と思っているのだろう、特に反応を示すことはない。続いてユアンは、自分専用のマグカップをテーブルの上に置く。そして、ミルクと角砂糖を用意した。
ソファーに腰掛けると、ユアンはコーヒーを一口含む。彼もソラ同様、ブラックコーヒーを好む。それを見たイリアはユアンと同じようにブラックコーヒーを楽しもうとするが、苦い液体。
口に含んだ瞬間、吐き出しそうになってしまう。その為、複数の角砂糖を手に取るとマグカップの中にドボドボと入れていく。しかし、それでも苦かった。ユアンは相当の量を入れたのだろう、今まで角砂糖を入れたのは四個。だが、それでも飲めるものではなかった。
イリアは顔を歪めつつ、懸命にコーヒーを飲み続ける。健康を第一に考えれば残した方がいいが、イリアは懸命に苦い味に耐えていく。「折角、ユアンが……」という涙ぐましい根性の影響している。それでも身体が拒絶反応を示しているので、今度は大量のミルクを注いだ。