エターナル・フロンティア~前編~
これなら、大丈夫だろう。その油断から、一気に口に含んでしまう。しかし、これくらいで飲めるコーヒーではなかった。ミルクを混ぜても、変化したのはコーヒーの色。それによりイリアの顔色が徐々に悪くなっていくが、根性で喉に流し込むと、大きく息を吐いた。
「どうした?」
「い、いえ」
「そうか」
「あ、あの……」
「何だ?」
「何か……その……自分で、淹れてきます。ラドック博士は、コーヒーのお代わりはいりますか?」
「そうだな。貰おうか」
「は、はい」
とうとうイリアは、コーヒーの味にノックアウトされてしまう。唇は完全に感覚を失い、微かに痺れている。それにこのまま飲み続けていたら、味覚が破壊されてしまう。そう判断したイリアは「コーヒーを淹れに行くと嘘を付き、捨てに行く」という結論を導き出した。
ユアンは、イリアが何を仕出かそうとしているのかわかっていた。だが、敢えて気付いていない不利を演じている。ユアンは残っていたコーヒーを頑張って飲み干すと、イリアの目の前にマグカップを差し出す。そして、マグカップの半分くらいの量を欲しいと頼んだ。
「インスタントでいい」
「お願いします」
「ああ、クッキーがあった」
「そうなんですか」
「手作りだ」
「それは、凄いですね」
「まだ、食べてはいない」
「それは、勿体無いです」
何か特別の物を期待しているのか、イリアは熱い視線を送っている。そもそもユアンは、甘い物を好んで食べるタイプではない。そしてこのクッキーの出所は、研究所の女子社員からの贈り物。
それに外食の多い生活を送っているユアンだが、決して料理が作れないわけではない。菓子類は得意分野ではなく寧ろ下手に近いので、イリアが望んでいる結末はない。しかしイリアは、熱い視線を送り続けている。完全に「ユアンが作った菓子」と、勘違いしている。