エターナル・フロンティア~前編~
性能のいい掃除機なので、耳障りな雑音はしない。イリアが個人的に使用している掃除機は古い型なので、時折雑音が混じる。ふと、このように性能の高い小型の掃除機を欲しいと思うが、いかんせんお金がない。金欠に悩んでいるイリアは、些細な事柄でへこんでしまう。
しかし、同時に思う。
立派な、科学者になれば――
そう、一定の給料が入る。
そうすれば、欲しい物が購入でき好きな研究が思いっきりできる。これこそ、イリアの夢であった。
妄想は、更なる妄想を呼ぶ。
それが影響して、何度か溜息をつく
「……ランフォード君」
「な、なんでしょうか」
「どうしたのかな?」
「い、いえ……」
イリアに向けられているユアンの目付きは、何か困ったことでもあったのかという同情が含まれていた。それは、浮かべている表情に関係していた。何とイリアは掃除をしながら、苦悶の表情を浮かべていたのだ。それを目の前で見てしまったユアンは、年頃の女性とは思えないイリアに嘆く。
言葉で指摘をすることはしない。相手を傷付けてはいけないという優しい心遣いと、言いたくはないという真情が半分ずつ持っていたからだ。それに、いつまでも構ってはいられない。ユアンは多くの者達から優しい一面が強いと思われているが、反面冷たい部分も持つ。
この世界に、完璧な人間は存在しない。何処かしら欠点を持ち、それで普通に生きている。しかし、表面しか見ていない人物はそのことに気付こうともしない。無論イリアも、ユアンの表面しか見ていなかった。その為、ユアンが浮かべている表情を間違って捉えてしまった。
「な、何でもありません」
「それならいいが」
「あっ! 掃除が終わりました」
「ご苦労様」
「あとは、コーヒーですね」
ユアンに掃除機を手渡すと、イリアはコーヒーを淹れていく。水を沸騰させていた為に、今はちょうどいい温度になっていた。それにより、先程のような火傷の心配はない。イリアはマグカップに残っていたインスタントコーヒーを入れると、その中にお湯を注いでいく。