エターナル・フロンティア~前編~
一杯目に飲んだコーヒーは、飲みにくかった。その為、二杯目は自分の味覚に合った分量にする。イリアの好みは、小匙で二杯分。それ以上に入れられると、飲めたものではない。
しかし過去に、イリアはソラ相手にやらかしている。そう、身体を悪くするようなコーヒーを出した。そのことを思い出したのか、今回は気を付けて分量を量る。流石に、同じ失敗を二度も繰り返すわけにはいかない。それにコーヒーで具合を悪くしたと周囲に知られたら、何があるかわからない。
ユアンは特別の存在。
周囲を敵に回してはいけない。
だからこそ、イリアは気を付けて淹れる。
「はい。淹れました」
「有難う」
「お口に合えば、いいですが」
「……うん。大丈夫だ」
「良かったです」
一口含み、素直に感想を言う。すると反応にイリアは、ホッと胸を撫で下ろす。ユアンの言葉に一喜一憂。実にわかり易い性格で、ファンクラブの面々と同じ印象を受ける。ユアンは一時期、ファンクラブの存在を知らないと言っていた。しかし、彼は嘘をついている。
ユアンが持つ情報網は、並を凌駕する。
一体、どのような繋がりがあるのかと疑問を持ってしまうほど広い。それを使えばファンクラブが存在しているくらい簡単に判明するのだが、そのことを尋ねない。それに、聞くこともしない。
ただ微笑みを浮かべ、存在していることに驚く。ユアンは物事に敏感であるが、それを表情と態度に示すことは少ない。
常に、冷静に――
それが、ユアンという人物の対面方法だった。
「そう言えば、場所を決めていなかった。コーヒーを飲みクッキーを食べながら、決めていこう」
「あっ! 忘れていました」
「……こら」
「す、すみません」
年齢を考えると物忘れが激しいのはおかしいので、俗に言う天然か。しかし天然でも、いいものと悪いものがある。今回の場合は、後者。大事な約束事は、忘れてはいけない。特に、社会人の間で「天然」という言葉は通じない。物事は、いいか悪いか。その二つだからだ。