エターナル・フロンティア~前編~

 それなら、スケジュールを聞き出せばいい。しかし、仕事の最中は携帯電話の電源を切っている時が多い。それに昼の時間帯に電話をして、注意を受けた経験を持つ。そうなると夜がいいだろうが、何と切り出せばいいか。当初はクッキーだけを期待していたが、しかし今は――

「が、頑張ります」

「それは、楽しみだ」

「味は……」

「期待している」

「……はい」

 一枚も二枚も上手のユアン。イリアが思っていることを先読みしているのか、悉く発言を封じていく。だが、自業自得で墓穴を掘っている。誰かを責める理由はなく、イリアは自ら撒いた種を何とかしないといけないだろう。だから、何が何でもソラと連絡を取らないといけない。

「シフォンケーキが、食べたい」

「シフォンですか?」

「作れない?」

「……大丈夫です」

 選りに選って、シフォンケーキとは――

 あのケーキは、シンプルでありながら実に難しい。以前イリアはこのケーキを一人で作ったことがあったが、萎んだケーキが出来上がった。そして何度も作ったが、結果は変わらない。

 何故、膨らまない。

 今もって、その原因が不明だった。

 そのケーキを作ってほしい。

 まさに、地獄に等しい。

 しかし――

「普通のシフォンで、いいでしょうか」

「それは、好きでいい」

「シフォンにも、種類がありますので……」

「難しいシフォンケーキを作ってくれるのかな」

「そのような意味で、言ったのでは……」

 イリアは、無限のループに陥っていた。語れば語るほど自身の首を締め上げ、完全に戻ることができない方向へ導いていく。一方ユアンは、楽しんでいた。別に嫌味を持って行っているのではないが、面白くて仕方がない。それと同時に、ユアンはイリアに人生の厳しさを教えていく。「一度言った言葉に、責任を持て」それを身を持って、教えていくのだった。
< 288 / 580 >

この作品をシェア

pagetop