エターナル・フロンティア~前編~
イリアはその部分が欠落しているのだが、本人は気付いていない。気付いていないから、適当に約束を繰り返す。シフォンケーキの件は、半分期待し半分期待していない。だがユアンは、本心では食べたいと思っている。それに相手はイリアなので、過度の期待は落胆を招く。
学生気分と社会人の自覚。
それは、ひとりでに覚えるもの。
勿論、ユアンはそうであった。
就職が決まったと同時に、目標と野望が入り乱れる。野望という表現は、悪い意味ではない。何事も野望を持つことは大事で、高い地位を目指すには多くの努力と他者と争うことが必要だ。特に、科学者の世界は実力主義。そして結果を出すことができれば、認められる。
弱肉強食。
大げさだが、その言葉が似合う。
「……大変だ」
「どうしましたか?」
「いや、独り言だ」
「そう……ですか」
イリアは首を傾げてしまうが、深く追求することはしない。相手がソラの場合、イリアは追求していた。徹底的に真相を聞きだし自己の満足を求める。しかし、今回の相手はユアン。
それにより、イリアは疑問に思っても言葉に出すことはしない。そして、冷静を装う。その時、携帯電話の着信音が鳴り響く。音の発生源は、イリアの携帯電話ではなかった。彼女は音を鳴らすのは失礼だということでマナーモードにしていたので、ユアンの携帯電話だろう。
その証拠に、ユアンはソファーから腰を上げると「失礼」という言葉を残し、奥の部屋に向かう。
仕事かプライベートか――
イリアの中に、好奇心が湧き出る。
勿論、勝手に見聞きしていいものではない。
だがイリアは、好奇心のままに動いていた。
(何処だろう)
足音をたてないように、ゆっくりと廊下を歩いていく。その間、視線を左右に走らせ場所を探す。思った以上に、扉の数が多い。ひとつずつ開けて中の様子を確かめるという方法もあったが、それを勝手にやっていいものか。だが、ユアンの後を追っている時点で迷うのはおかしい。何を思ったのかイリアは勝手に扉を開けると、部屋の中へと歩みを進める。